MOMO SS:2



「ふぁいと」



「……あ、あのっ、王子……っ、」

ぎくしゃくと音が聞こえてきそうなほどぎこちなく俺の傍にやってきて

消え入りそうなほどに小さな声で必死に言う。

「――頑張ってくださいね」

――いや、おめーが頑張れイカ子……。

今日はこれから国王の代理でちょっとした式典に参加することになっている。

舞台に上がって、先日の格闘大会で好成績だった者に賞状を渡して

勿体ぶって一言挨拶するだけの単なるお飾り。

……大したコトない仕事じゃん。

それなのにまるでオレが国王になるような緊張ぶりで控室内をせわしなく動き回り

オレに進行表を見せながら説明し服装の乱れを整えて……慌ただしいことこの上ない。

「…それでですね、王子はこの司会の後に上手(かみて)から登場し……あっ!」

震える手から、進行表がはらりと落ちた。

「――――っ!」

とっさに差し出した手がイカ子の手に重なる。

「………っと、」

「あ………っ、」

かああああっ。

面白いほどに赤くなる頬。つられてオレも恥ずかしくなってしまう。

「王子ー、そろそろスタンバってくださーい」

ドアの外でシャークの声。

「おう!……んじゃ、行ってくるじゃん」

「は、はいっ!……行ってらっしゃいませ」

最後まで心配そうな顔のイカ子に大丈夫じゃん、と軽く言い残して控室を後にした。

――舞台袖にひとりで立つ。シャークは幕係と最終打ち合わせ中だ。

閉じた幕の外側には式典出席者が開幕を待っている…。

ざわざわと漏れてくる「人」の存在に喉が渇いてくる。

まだ照明も浴びていないのに、なんでじゃん?

………………。

………………?

なんじゃん、この気持ちは……。

胸が高鳴る。呼吸が速くなる。

――オレ、緊張してるじゃん…?

自分でも信じられないが、どうやらそうらしい。

どんな闘いでも臆することのなかったオレが、たかがこれだけのことで…?

――こんなになるなんて、あいつみたいじゃん――

『――頑張ってくださいね』

あいつの声と、さっきまでの滑稽なほどの緊張ぶりを思い出し、ふっと口元が緩む。

急に身体中の力が抜けてゆくのを感じた。

………オレの代わりに、オレのぶんまで緊張してくれたじゃん。

式典の開幕を告げる司会者の声。

下手(しもて)側の袖で裏方の合図が見えた。

――よし、出陣じゃん。

「――行ってくるじゃん、イカ子」


『――頑張ってくださいね』


ぎゅっと握り締めたこぶしに、やわらかく暖かい手が重なるのを感じた、気がした――。





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